最終更新日:2020.08.24

本当に正しいオーバースローの投げ方で、簡単に空振りを取る方法

オーバースローの正しい形を身につけよう!

オーバースローは速いボールを投げるための投げ方ではない?!

オーバースロー(オーバーハンドスロー)の特徴を挙げるとすれば、速いボールを投げるための投げ方ではない、という点です。オーバースローのメリットは、より垂直に近いキレイなバックスピンをかけやすくなるという点です。もし速いボールを投げられるフォームを模索されているようでしたら、スリークォーター、ロースリークォーター、サイドハンドスローがベストだと思います。

ただし、股関節を上手に使えるようになるとオーバースロー以外の投げ方でもキレイなバックスピンストレートを投げられるようになります。もちろんサイドスローであっても。日本の少年野球や野球部の指導では、スローイングアームの使い方を教わる機会は多いと思うのですが、股関節の使い方をしっかりと教わることができる機会は少ないのではないでしょうか。しかしスポーツでは股関節こそが人間の体の中にある200個くらいの関節の中で、最も重要な関節なんです。

まずは下の写真をご覧になってみてください。これは正しいオーバースローの体の角度を示した写真です。

正しいオーバースローの形

右肘、右肩、左肩の三点が一直線になっていることがおわかりいただけると思います。これが正しいオーバースローの形です。厳密に言うと正しくはないのですが(後述します)、上腕と背骨が直角の関係になっています。この形が肘が下がってもいないし、上がり過ぎてもいない唯一の正しい形です。

そして左股関節を外転(振り子のように真横に脚を上げていくような股関節の動かし方)によって背骨がリーディングアーム側に傾き、その結果腕が上がっていきます。注意点としては、腰を横に反らすようにして軸を傾けてはいけない、という点です。脇腹というのは筋肉が非常に少ない部位ですので、それをやってしまうとあっという間に脇腹を痛めてしまいます。そして脇腹痛は癖になるので要注意です。ですのであくまでも、股関節を外転させることによって軸(だいたい背骨付近)をリーディングアーム側に傾けていってください。

オーバースローのメリットはバックスピンを垂直に近づけられること

少し上述した通り、オーバースローのメリットはストレートのバックスピンをより垂直に近づけやすくなることです。その結果マグナス力が大きくなり、ホップ要素となる揚力が増え、球速に関わらず伸びのある失速しないストレートを投げられるようになります。

例えばメジャーリーグやホークスで活躍する和田毅投手の球速は決して速くはありません。しかし理に適った適切なオーバースローで投げているためにバックスピンの質が非常に良く、140km/h未満のストレートでも強打者から空振りを取ることができます。ちなみに和田投手は、僕のようなパーソナルコーチのアドバイスを受けながら、そのような理に適った投球フォームを作り上げた選手です。

股関節が硬い選手はオーバースローは避けた方がいい?!

オーバースローのメリットを最大限得ていくために重要になってくるのは股関節の柔軟性と強さです。シーテッドV(座位開脚前屈)というストレッチングをしてみてください。座って膝を伸ばして、爪先は真上に向けた状態で、両脚を何度くらい広げることができますか?もちろんマリーンズの佐々木朗希投手のように180°広げられるのがスポーツ選手の理想です。

この時股関節が硬くて、両脚の広がりが150°に満たないような選手はオーバースローは避けた方が無難です。上述したように、オーバースローは股関節の外転(厳密には水平外転に近い動き)によって軸をリーディングアーム側に大きく傾けて腕を上げていく投げ方です。ですので股関節が硬かったり弱かったりすると、股関節を使って軸を傾けることができなくなり、その結果スローイングアームを上げることによってオーバースローで投げるようになってしまいます。しかしその投げ方ではあっという間に肩を痛めてしまいます。 overhand2.png

上の写真が間違ったオーバースローの形です。肘、右肩、左肩が一直線にはなっておらず、両肩を結んだ線分の延長線上よりも高い位置に右肘があります。肘が赤い線よりも上にある状態は肘が上がり過ぎているという形で、これも肘が下がっているのと同様に肩肘を怪我するリスクを高めてしまいます。

股関節が硬いと上の写真のように股関節を使えず、軸が立ってしまっている状態で、腕だけを上に上げてオーバースローで投げようとしてしまうんです。「もっと上から投げろ!」という指導をされてしまう小中学生に非常に多いパターンです。このように三点が一直線になっていない状態、いわゆる「0ポジション」になっていない状態では腕を鋭く振ることはできないため、例えばバックスピンを垂直に近づけられたとしても、スピンを増やすことはできないため、空振りを取れるようにはなりません。

0ポジションって一体なに?!

ここで0ポジションについて簡単に説明をしておきたいと思います。0ポジションとは一般的には、肩関節がどの方向にも曲がってはおらず、肩関節にあるローテーターカフ(棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋という4つのインナーマッスルの総称)が伸ばされていない状態のことを言います。

ボールをリリースする瞬間、体には最も大きな負荷がかかるわけですが、そのボールリリース前後で0ポジションになっていることで野球肩を防ぐことができます。そして10年前までは、0ポジションは肩線分の延長線上にキレイに肘が乗っている状態のことだと言われていました。しかし近年の研究ではそうではなく、実は肘は僅かに下がり、肩関節は僅かに水平内転している状態で0ポジションになるということがわかってきています。ただしそれでも、体の外から見たら上述した三点は一直線に見えますので、あえて肘を下げるようなことはしないでください。

また、これも体の外から見てわかることではないのですが、0ポジションは人によって少しずつ形が違うということも近年わかり始めています。ただし体に色々とセンサーをつけて動作を調べたり、CTスキャン等を使わなければ調べることはできませんので、僕のようなプロコーチではない限り、あくまでもひとつの知識として覚えておく程度で良いと思います。

オーバースローの投げ方を確認しておこう!

オーバースローは股関節を使い、軸をリーディングアーム側に傾けて腕を上げる投げ方だと上述したわけですが、この説明だけでは正しいオーバースローを身につけることはできません。この軸を傾けていく作業は、リーディングアームを使って行います。つまりグラブをはめた方の腕ですね。リーディングアームは主に「エイミング」と「スクロール」というモーションを作っていくのですが、このスクロールの引っ張りによって軸を傾けていく必要があります。

これが例えばサイドスローの場合、リーディングアームは真横(水平方向)に引っ張ってしまって良いと思います。しかしオーバースローは、右投手の場合であれば右腕を右上に上げていきます。そのために軸を左側に傾けるわけですが、それを可能にするためには左腕を左下に向かってスクロール(左腕を巻き取った上で引っ張る動作)していく必要があります。

軸をリーディングアームを使って傾けることができないと、上腕と軸の直角を維持したまま投げることが難しくなるため、肘が下がったり上がったりしてしまいます。リーディングアームとは「投球動作を牽引する腕」のことです。スローイングアームを上げてオーバースローで投げていくためには、どれだけ強くリーディングアームを使えるかが鍵になってきます。

そしてリーディングアームを力強く使って股関節を動かしていくためには、ステップして踏み出していった足部は絶対に浮いたり回ったりしてしまってはダメです。この土台が不安定だと股関節は絶対に使えなくなりますので、下半身の力を股関節を通して上半身に伝えられなくなり、手投げをせざるを得なくなります。

ピッチングの軸は体の外に飛び出す?!

さて、先ほど「軸(だいたい背骨付近)」と書いたわけですが、実はこれは厳密ではありません。なので「だいたい」と書きました。確かに体軸という意味では背骨は常に軸となるわけですが、しかしピッチングモーションにおける軸は背骨とは重ねないことが最良です。詳しくはまた別のページで書くことにするとして、簡単な説明だけをしておくと、踏み出した足をしっかりと踏ん張ってリーディングアームで股関節を動かせるようになると、ボールを投げる際の運動軸は、スローイングアーム側の脇腹の外側(体の外側)に飛び出していきます。

運動軸が体の外に飛び出す形がピッチングやバッティングでは最高の形で、これができるようになると遠心力ではなく、求心力を使ってボールを投げられるようになります。その結果腕が遠回りしなくなり制球が安定し、バックスピンを増やせるようになります。さらには遠心力が小さくなればなるほどローテーターカフへの負荷は小さくなるため、野球肩も防ぎやすくなります。

しかし日本の少年野球ではこのようなバイオメカニクスをまったく知らない方々が「もっと腕を大きく使って投げなさい」と間違った指導を今なお続けてしまっているのが現状です。もちろんボランティアコーチに、僕らプロコーチのような勉強量を求めることはできないわけですが、間違ったことを教えてしまうよりは、最初からまったく教えない方が子どもたちは良い投げ方を覚えるケースが多くなります。

大きく使うのは上半身ではなく脚!

大きく使うのは腕ではなく脚です。右投手ならまず左膝が胸に付くくらい脚を高く上げて、そしてボールリリース後は右靴が頭よりも高くなるくらい軸脚を高く振り上げていきます。そしてこの軸脚の振り上げは、オーバースローの腕の振りをさらにサポートしてくれるため、腕を力むことなくスローイングアームを鋭く振りやすくなります。

逆に脚の使い方が小さかったり弱かったりすると、上半身の力を使って投げざるを得なくなります。脚一本の体全体に対する割合は一般的には16%です。つまり両脚合わせると、実に体の3分の1が脚なんです。その脚をしっかり使うことができないということは、体の3分の1を使わずに投げるということになります。そして特にオーバースローでは脚を使わないと肩関節の内外転が大きくなりやすく、ローテーターカフにかかる負担が大きくなり、まだ野球を始めたばかりの小学生なのに肩を痛めてしまうというケースも多くなります。

さて、運動軸が体の外に飛び出すのがベストだと書いたわけですが、そこまで良い投げ方ができなかったとしても、背骨は軸としては使わないでください。ボールを投げる時の軸は、右投げの場合は右肩と左股関節を結んだライン、左投げの場合は左肩と右股関節を結んだラインを運動軸として使っていきます。

背骨を運動軸として使おうとするとかなり高い確率で肘が下がるようになります。と言うよりは、肘が上がる前に投げざるを得なくなる形になってしまいます。ですので軸は、確かにだいたい背骨とはなるのですが、でも実際には背骨は運動軸としては使わず、肩と股関節を結んだラインを軸にし、リーディングアームでその軸をスピンさせていく、という意識で投げるようにしてください。

オーバースローに合う変化球

オーバースローはより高いところからリリースする投げ方ですので、やはり縦の変化球が投げやすくなります。フォークボールやスプリッターはもちろんのこと、ドロップ(縦に大きく割れるカーブ)やチェンジアップが投げやすくなります。あとはスピンを活かすと言う意味では、ツーシームで握りを少しずつ変えることによって小さく曲がるシュートやスライダーを投げ分けるのも良いと思います。

逆に、投げられないというわけではないのですが、一般的なスライダー系の変化球は投げにくいと思います。あえて抜くように投げるドロップとは異なり、抜けることは避けたいスライダーやタイトカーブ、スラーブといった球種は、純粋なオーバースローだと少し投げにくくなります。

オーバースローのもっともオーソドックスなコンビネーションはストレート、ドロップ、フォークボールの組み合わせだと思います。ここにさらにチェンジアップが加われば長いイニングも投げやすくなります。変化球が3つあれば、1つは後半戦のために隠し持っておくことができますからね。自分で自分をリリーフするというイメージで、前後半で配球を変えていけるようになり、二巡目三巡目になっても打者に的を絞らせないピッチングができるようになります。

ホップするような伸びのある高めのストレートを武器にできるのがオーバースローだと考えると、やはり低めにストンと落ちていくフォークボールが非常に大きな武器になっていきます。ピッチングの基本は対角線を上手く使うことです。内角高めと外角低め、内角低めと外角高め、もしくは単純に高めと低め、外角と内角、これらの対角線を上手く使う配球をしていけると、バッターはボールに対して目を鳴らすことがなかなかできなくなります。

ボールの下を空振りするような伸びのあるストレートを活かすためには、やはりフォークボールをマスターすることが非常に効果的です。ストレートとフォークボールで、ストライクゾーンの上下をフルに使う、ということです。ただ、もちろん実際にはフォークボールはストライクゾーンからボールゾーンに落としていくわけですが。

オーバースローのフォームに関するまとめ

とにかくオーバースローで投げる場合、股関節の柔軟性と強さが大きく影響します。現時点で股関節がアスリートレベルで柔らかくはない選手は、オーバースローは避けた方が無難です。股関節の外転が小さくて済むスリークォーターやロースリークォーターで投げた方が、より自分自身のコンディションに合った体の使い方で投げられると思います。

ですが股関節のコンディションが良くて、スピードガンの球速は気にしないけど、空振りを取れるピッチャーになりたいという場合は、オーバースローに挑戦するメリットは大きいと思います。自分の体の状態、そして目指したい投手像を踏まえながら、オーバースローで投げるのか、他の投げ方で投げるのかを決めていくのが良いと思います。

オーバースローは他の投げ方以上に体の強さとしなやかさが求められる投げ方のため、挑戦するのであれば柔軟性が高いということが条件になってきますが、しかしオーバースローを正しくマスターすることができると、それほど速くないボールでも空振りを取れるようになります。ただし、習熟度の低いオーバースローだと遠心力が大きくなり、肩肘への負荷が大きくなってしまいますので、内旋型トップポジションでしか投げられない選手は柔軟性があってもオーバースローは避けた方が無難かもしれませんね。オーバースローに挑戦する際は、このような点を踏まえながら挑戦されると良いと思います。

 

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