最終更新日:2020.04.14

球質を大きく左右させるトップポジションの良し悪し

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ピッチングのトップポジションには内旋型と外旋型の2種類がある

書店で市販されている野球教則本では、元プロ野球選手が監修している本であっても、ほとんどの本で内旋型のトップポジションが紹介されています。しかし僕のレッスンでは、基本的には内旋型のトップポジションは推奨していません。その理由は、今回の投手育成コラムを読んでいただくとおわかりいただけると思います。

でもトップポジションの説明をする前に、まずは内旋外旋という動作の確認をしておきたいと思います。人間の体には約260個の関節があるのですが、そのうちの肩関節と股関節のみで、内旋外旋という動作を取ることができます。そして内外旋できる関節のことを、ボール&ソケットと呼んだりします。

ニュートラルな状態の肩関節

まず上の写真は、肩関節は内旋も外旋もしていない、ニュートラルな状態です。

内旋された肩関節

続いてこの上の写真が内旋された肩関節で、この下の写真が肩関節が外旋された状態です。まずはこの内外旋の動作を間違わずに覚えておきましょう。

外旋された肩関節

内旋型トップポジション

内旋型トップポジション

外旋型トップポジション

外旋型トップポジション

内旋型トップポジションだと肘が下がりやすいって本当?!

少年野球チームの指導では、99.9%は内旋型トップポジションを指導してしまっています。僕自身プロコーチとして多くの野球少年や親御さんやコーチ、そしてプロ野球選手たちと話をしてきましたが、外旋型トップポジションの存在を知っている方はほとんどいらっしゃいませんでした。2010〜2020年までプロコーチとして活動してきた中で、外旋型トップポジションの存在を適切に理解していた選手は2〜3人です。野球選手の肩肘を治療するスポーツ外科の先生や、理学療法士でさえもその存在を知らないケースがほとんどです。

ですがプロ野球選手の、細身なのに速いボールを投げられて、ほとんど怪我もしないピッチャーをよく観察してみてください。トップポジションに入るまでの動作は人それぞれだったとしても、外旋型トップポジションで投げているケースがほとんどです。彼らはこの動作をコーチから学ぶことによって身につけたケースもあれば、本能的にできているケースもあります。例えばイチロー選手はプロ1〜2年目までは内旋型トップポジションだったのですが、オリックス時代の先輩選手に弱肩を指摘されてからフォームを見直し、プロ2〜3年目に外旋型トップポジションに変更しました。その後の強肩振りに関しては、ここで説明する必要はありませんよね。そしてあれだけ強いボールをあれだけ遠くまで投げ続けていたのに、イチロー選手は肩肘を壊したことがありません。そうなんです、外旋型トップポジションは球質をアップさせられるだけではなく、肩肘の故障のリスクを下げることもできるんです!

肘が下がりやすくなるトップポジションとは?!

まずこの下の写真のように、内旋型トップポジションの形を作ってみてください。そして下の下の写真のように、腕を持ち上げてみてください。もちろん腕は上がると思いますが、三角筋(上腕の外側上方にある筋肉)に引っ張られている感じがするはずです。つまり内旋型トップポジションで投げてしまうと腕が上がりにくくなるんです。もっと言うと、この三角筋の引っ張りによって肘が下がりやすくなるんです。要するに内旋型トップポジションを指導しておきながら「肘が下がっている!」と言うのは矛盾した指導になってしまうわけです。

内旋型トップポジション
三角筋に引っ張られてしまう

では今度は、外旋型トップポジションを作ってから腕を上げてみてください。引っ張られる感触はなく、スムーズに腕が上がっていくはずです。三角筋に引っ張られることがないため、外旋型トップポジションだと肘も下がりにくくなります。

外旋型トップポジション
腕がスムーズに上がる

内旋型トップポジション

下の5枚の連続写真が、内旋型トップポジションでの動き方です。まずこの形で投げてしまうと、アクセラレーション(トップポジションからボールリリースにかけての、ボールの加速期)で手のひらが常に投球方向を向く状態になってしまいます。するとアクセラレーションの最中、どこででもボールをリリースすることができてしまうんです。つまりリリースポイントが一定にならずにコントロールが大きく乱れてしまうということです。これはピッチャーに限っての話ではなく、全ポジション共通です。

そして5枚目の写真の赤い矢印を見てください。これは肘の内側にある内側側副靭帯を示しているのですが、内旋型トップポジションだと、アクセラレーションでこの靭帯が伸ばされてしまうんです。靭帯や筋肉というのは、伸ばされることによって最も大きな負荷がかかるようになります。筋トレであれば筋肉を最大限伸ばすフォームの方がよく鍛えられるわけですが、靭帯は筋肉のように鍛えることができません。伸ばしてしまうとダメージが蓄積されるだけなんです。ですので内側側副靭帯を投球時に伸ばしながら投げてしまうと、生涯球数が増えれば増えるほど、投げるボールのスピードが上がれば上がるほど、野球肘になりやすいんです。そしてこの靭帯の再建手術こそが、プロ野球選手がよく受けているトミー・ジョン手術というわけです。

内旋型トップポジション(1)
内旋型トップポジション(2)
内旋型トップポジション(3)
内旋型トップポジション(4)
内旋型トップポジション(5)

外旋型トップポジション

「良いピッチャーは腕がしなって見える」とはよく言いますが、人間の肘は実際にしなることはありません。あくまでもしなって見えているだけであり、外旋型トップポジションを作れた瞬間こそが、まさにしなって見える瞬間なのです。しかしここで注意したいのは、内旋型トップポジションであっても肘の内側に負荷をかけて伸ばすと多少しなって見えるという点です。しかし外旋型トップポジションを作れていると、すごくしなっているように見えますので、この差の見間違いはコーチとしては絶対に避けたいところです。

さて、下の5枚目の写真の形を作り、二塁側からチームメイトにボールを摘んでもらい、二塁側に軽くボールを引っ張ってもらってください。肘も腕も、どこも痛くならないはずです。そして今度は内旋型トップポジション5枚目の写真で、同じように後ろから軽く引っ張ってもらってください。すると軽く引っ張っただけで腕に痛みを感じるはずです。怪我をしていないのに痛みが生じるということは、体の構造に反した動作になってしまっているということで、これではパフォーマンスがアップしにくくなりますし、あっという間に怪我をしてしまいます。

外旋型トップポジション5枚目の写真の形をもう一度作り、もう一度後ろから、ゴムが伸ばされていくイメージ軽く引っ張ってもらってください。そしてそのゴムが一気に縮んでいくイメージでボールを投げてみてください。このゴムが伸びて縮んでいくような動きで加速度を高めるのが、ラギングバックというメカニクスです。細身のプロ野球選手が150km以上のボールを投げられるのは、このラギングバックを上手く使えているからなんです。

外旋型トップポジション(1)
外旋型トップポジション(2)
外旋型トップポジション(3)
外旋型トップポジション(4)
外旋型トップポジション(5)

内旋型トップポジションは上半身を使いやすく、外旋型トップポジションは下半身を使いやすい

内旋型トップポジションで投げてしまうと上半身の動作が先走るようになり、下半身よりも上半身の筋力を使いやすくなります。すると非軸脚側の股関節も使いにくくなり、手投げになっていきます。手投げは野球科学の専門用語で「骨盤回旋不良」と呼ぶのですが、これは股関節を使えていないことによって骨盤が上手く回旋していない動作のことで、それを一般的には手投げと呼びます。

一方外旋型トップポジションで投げるためには股関節を上手に使っていく必要があります。肩関節の内外旋は、股関節の内外旋に先導されて行なっていく動作ですので、外旋型トップポジションで投げられているということは、下半身の使い方も上手にできている、ということになります。この時、振り上げて着地させた非軸足のスパイクがちょっとでも浮いたり回ったりして踏ん張りが弱くなると、股関節は回せなくなってしまいます。ですので着地させたスパイクは真っ直ぐにし、最低限浮いたり回ったりしないようにしましょう。

さて、内旋型トップポジションではリリースポイントが一定にならないと上述したわけですが、外旋型トップポジションの場合、槍投げのように小指が投球方向を向いたところから徐々に旋回していき、リリースポイントで初めて手のひらが投球方向と正対するようになります。つまりストレートをそのリリースポイントでしか投げられなくなるため、自ずとコントロールが安定していきます。内旋外旋という小難しいことがよくわからない場合はシンプルに、槍投げができる投球フォームになっているかどうかをチェックしてみてください。トップポジション以降、槍が真っ直ぐ投球方向に向き続けていればOKです。

トップポジションのまとめ

外旋型トップポジションをインストールした、怪我をしにくいし制球力も球速もアップしやすい投げ方を、僕は選手だけではなく、野球選手を治療するスポーツ外科の先生方や、野球選手のリハビリをサポートする理学療法士(PT)の方々にレクチャーすることもあります。皆さんやはり、市販されている一般的な野球教則本で勉強されているのですが、上述したように、一般的な書店で売られている野球教則本の大半で内旋型トップポジションが紹介されてしまっています。ですので本をたくさん読んで勉強されても、実はそれは怪我をしやすい投げ方であるケースがほとんどなんです。ですので勉強するのであれば、医学書を専門的に扱った大型書店で、エビデンスに基づいたことが書かれている野球動作に関する本を読む必要があります。

先生もPTも、外旋型トップポジションについてレクチャーしてさしあげると「確かにその方が人間の体の構造に則している!」と仰います。そうなんです、人間の体を使って行う野球動作を、人間の体の構造を無視して行ってしまうと、パフォーマンスはアップしにくいし怪我もしやすくなるんです。でも人間の体の構造に即した動作で投げられるようになると、肩肘を簡単に痛めることもありませんし、今回の投手育成コラムで長々と書いたように制球力も球速もアップするようになります。速いボールを怪我することなく投げるのに、丸太のように太い腕なんて必要ないんです。

もちろん速いボールを投げた衝撃に耐えるために、プロテクターとしての筋肉はある程度は必要になってきますが、しかし速いボールを投げるためだけに筋肉を鍛えてしまうと、トップポジションも内旋型になりやすく、下半身が安定する前に上半身でボールを投げ終えてしまうフォームになってしまいます。特に習熟度の低い野球選手ほど。

小学生を見ていても、プロ野球選手を見ていても、ボールを投げる腕の振りに下半身が振り回されてしまっているピッチャーが大勢います。しかし逆です。下半身の動きによって、リラックスした腕を振り回していくんです。外旋型トップポジションは、肩関節だけを意識すればできるようになる動作ではありません。肩関節を動かす前に、まずは肩関節の先導役を務める股関節を適切に使いこなせていないと、外旋型トップポジションでボールを投げることはできません。

ピッチャーでも内野手でも捕手でも外野手でも、外旋型トップポジションで投げられるようなるとたくさんのメリットを得ることができます。だからこそ僕はプロコーチとして2010年以降小学生からプロ野球選手にまで、外旋型トップポジションを作るためのレッスンを長年続けてきました。その結果成績が向上した選手が数え切れないほどいることはもちろん、何度病院に通っても投げると肩肘が痛かった多くの選手たちが、痛みなく投げられるようになりました。

投球フォームはトップポジションを境に前後に分けることができます。トップポジション以前は、良い形のトップポジションを作るための動作です。そしてトップポジション以降は、良い形のトップポジションを使うための動作です。トップポジションの良し悪しは、球質を大きく左右させます。伸びのある制球力抜群の速いボールを投げるためにも、ぜひ外旋型トップポジションで投げられるようにトレーニングしてみてください。

トップポジションの概念

トップポジション=コックアップ後に肩関節が外旋し切ったポイント。これがトップポジションの本当の概念です。つまりコックアップ後に肩関節が外旋状態に入っていなければ、トップポジションがない状態で投げているということになり、この状態では球質がアップすることはありません。今回はわかりやすく内旋型、外旋型という形でトップポジションを分類しましたが、本来は「外旋し切ったポイントがトップポジション」となりますので、ご注意ください。

 

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